大地讃頌

11月5日、土曜日。昼下がり。コロナ禍によって世界が終わってからずっと、"漠然としたクソデカ物足りなさ"が僕の心のやらかい場所を着実に破壊し続けていた。その破壊を認識してはいたものの、めんどくささが勝ってしまいかれこれ5年くらい放置していた。今日こそ破壊を食い止めないとな...そんなことを考えていた僕の重い腰をひょいと持ち上げてくれたのは、友人からのLINEだった。

 

「すごく急で申し訳ないんだけど、今東京に帰ってきてるので今晩よければどうでしょう...?」

 

僕は信じられない速さ(当社比)で返信し、まばたきをした次の瞬間、ここにいた。

(言葉にできない)

世界で一番美しいイエロウとブラックが、そこにはあった。「大地」「森羅万象」「万物の根源」などと呼ばれ、世界中の人々が畏敬の念を抱くラーメンを提供してくれるサンクチュアリ、それがラーメン二郎・横浜関内店。この文字列だけでよだれが出てくるので、僕の名字がパブロフであり、前世が犬であったとしても驚かない。

 

御関内二郎はたいていアホみたいに人が並んでるし、友人と僕が到着した頃には開店からしばらく時間が経っていたので、1時間半待ちを覚悟していた。しかし我々の予想に反し、参杯客の列は標準よりやや短い程度(当社比)であった。明らかに神が僕たちを祝福していた。神風を背中に感じながら、ついに店の前まで来た。

さながら両手を広げて出迎えてくれる母のようである

ここが天国の入り口なのだろうか。左の自販機がペトロにしか見えない。看板を照らす左右の照明は、さながらエレクトリカルパレードのよう。このあたりまで来ると、店内から究極のリラクゼーション効果がある香りが漂ってくる。大学時代いつもここで「この香りだけでもう実質一杯食ったようなもんだよな」とか意味不明なことを言っていた。今回も無事言った。

 

店内から天使*1が僕を誘う声が聞こえた。僕は某国民的青ダヌキのように、地面から3mmくらい浮いてるようなフワフワした足取りで入店した。カウンターにカラフルな食券を並べ、着席し、深く息を吐く。5年前と同じだ。

 

そして、時は来た。

 

「ニンニク入れますか?」という天使の声。

君の産声が
天使のラッパみたいに聞こえた
あんな楽しい音楽は
きいたことがない

かつて結婚前夜にこう語ったしずかちゃんパパの気持ちが、今ならよくわかる。僕はこんなに楽しい音楽を聴いたことがない。

僕は天使の問いかけに応答した。力強く、そして高らかに。

 

「ニンニクマシ...ッ!!!!!アブラカラメ...ッ!!!!!!」

 

小豚汁なしニラキムチ粉チーズ ニンニクマシアブラカラメ

こちらがご尊容である。ここにはこの世のすべてがある。激しく活動を続ける火山のようなニラキムチ。真っ白な雪のような粉チーズ。青々と茂る森のようなヤサイ。険しい山岳地帯のような豚。真ん中には太陽。下層にはスープの海。森羅万象が、このどんぶりに詰め込まれている。

 

HAPPINESS.

これは大学時代にいつものように御関内二郎の参杯列へ並んでいた時、店内から出てきた東南アジア風の兄ちゃん2人が満面の笑みで発した言葉だ。今日は豚があーだとか、麺がこーだとか、上振れ(下振れ)だとか、そんな感想はもう言い飽きたし読み飽きたという僕に、この英単語はひどく刺さった。過去の御関内二郎と比較してどうだったかなんて関係ない。比較する必要がない。今日その時、その瞬間に美味かったかどうか。それだけでいいのだ。しかも御関内二郎は割とレベルの高い合格点を超えてくるような二郎をあの~オールウェイズ出してくれる*2。いつだって美味しい。いつだってHAPPINESS。

 

満面笑みをマスクの下に浮かべながら、僕は楽園を後にした。マスクによって、帰り道もニンニクの香りを楽しみながら帰ることができる。僕はこの画期的なシステムを「永久機関」と呼んでいる。いつもこの友人とは、食後の悪あがきとして横浜駅まで歩いて帰っていた。タクシー乗ろうとか言われないかと少し構えていたが、今日も歩きましょうやということになった。お互いの口からニンニク臭さと懐かしい話がポンポンと飛び出し、とても楽しい時間を過ごした。

ランドマークタワーを撮りながら自身のニンニクの香りで昇天した瞬間

 

勢い余って2週連続でスカイスパへ来てしまった。先週一緒にスカイスパへ行った友人とたまたまサウナで出くわすというイベントが起こった以外は、大変落ち着いた夜を過ごした。

ととのった

母なる大地よ ああ

讃えよ大地を ああ

 

 

*1:圧倒的おじさん。

*2:原文ママ